ブラインドがぱたんぱたん。ぱたーん

ぱたんぱたん。ぱたーん
初夏に近い青空の爽やかな風が、ブラインドを揺らしてる。

数日前にのり弁当とともにかみ切った上唇が立派な口内炎になって、下唇にくっつく。ぺたん。ずりゅ。ぺたん。ずりゅ。
喋るたび、傷口がついたり離れたりウエルカム、アデュゥ。

はじめはしゅっとした一本線だったのに、だんだんエッジがぼやけてきて情けない感じの飛行機雲をみあげてみた。倉庫街のちいさな事務所の窓から。

電話が鳴っても出る気にならない。
喋ると痛いからね。
実際に目の前に相手がいると、喋らなくてもコミュニケーションはとれる。笑ったり殴ったり泣いたり色目を使ったり、バリエーションもニュアンスもでる。

なかなかあきらめない電話の主。着メロは「ロシア民謡Am系」。鳴り続ける。悲しい気持ちになってくるよ。
ああ、ちくしょうと、携帯に手を伸ばしたところ、切れた。

こういうのがとても気に入らない。
いい子いい子してくれしてくれって寄ってきたのに、もういいわん!と去っていく犬のよう。
ちぇっと舌打ちして、後悔。
またもや唇がウエルカム、アデュゥ。

すぐにメールが着信。
相手は昔何度か儲からない仕事をした仲間の一人だった。
「ご無沙汰してます。例の御輿の件、順調ですか?一度ご連絡頂きたく。よろしくお願いいたします。」

意味わかんない。
御輿ってなんだ?

用事はないし普通なら無視するところだが、なんか「やば面白い香」りがする。
受けてたなら受けてたで、どんな状況で受けたのか思い出したいし。
間違いメールならその話、無理矢理入り込んでもいい。
とりあえず「PM9:00 三丁目の山男バーでまつ。」と返信。

パソコンに戻り無修正アダルトムービーの編集作業に戻る。
いろんな趣向の客人たちのために、その手のシーンを集めて編集したDVDを作るのがわたしの仕事。「乱交」「オーラル」「レズ」・・・。
射精までのタイミングをはかり、お客が丁度良い時にそのシーンが来るように計算し、余分はカット。時給5000円。なかなか楽なもんだ。

ただ私の知ってる(知っていた)男達のその瞬間までのタイミングより、2割ほど早い。それが当初はクレームになった。ボスから激しく責められては、膝をこすりあわせて感じていた。気持ちの良さをとるか、食いぶちをとるかで後者を選んでしまった。

弊害としてまったくもって男性器に興味がなくなり、女性器に気持ち悪さを感じなくなった。
性欲を感じるのは今や風にざわざわと揺れる麦畑や、夜の海の波の音や、最近目をつぶった時に浮かぶ、どこか坂の上から瓦屋根が続いてる風景を見下ろす男のイメージだけだ。この男は誰?まったく行った事がないであろう場所だとおもうのだけど。
心地よい風がまた、吹いて。
ぱたんぱたん。ぱたーん