1983年。
デヴィッドボウイの「1984」が来年だな〜なんて思っていた大学生の僕は、友人からあるレコードを勧められた。
小山卓治の「NG!」というレコード。
部屋の隅に置かれた、今ではもう見なくなったブラウン管の曲線の画面は、ジョンレノンが射殺されたダコタアパート前を写してる。
さっと聞くと、その当時流行り始めたコールアンドレスポンス的なロックンロールや、しっとりとしたバラードなんだけど、そこで発せられる声の「ロックぽさのない、繊細なシャウト」が心に残った。
冒頭の曲で歌われる男女。まるで映画のようだった。
スプリングスティーンやニールヤング、ディランなどの「訳詞」のような構造的ストーリー。好きだったボリスヴィアンやラングストンヒューズの匂いもする。
明日の見えない若者たちの歌はたくさん溢れていた。(尾崎豊という巨星もいた)
でも小山卓治の歌から感じる、少し焦げたような斜陽感は他では感じられなかった。
1984年。僕はいろんな事情で大学を辞め、足元に薄く広がる不安に絡めとられそうになりながら生きていた。
彼女(今の妻)と語る未来だけが生きがいだった。
そんな時に出会ったレコードがこれ。「HIMAWARI」
決定的だった。
そこで歌われる物語はさらに袋小路だし、ブルーカラーの労働者たちの苦痛や嘆き、さらに喜びや安らぎまでが描かれていた。
物語がそこにあった。
アーティスト(小山卓治)はカメラの裏に回り、自由に歩き出す主人公たちを見守る。
俺はこう思う!俺はこんな人間だ!
そんな主張を表に出さず、ただただ勇気と愛情を持ってキャラクターたちを動かす。
ガソリンが水たまりに虹をつくる道の向こう
すすけた赤い屋根が続いてる
「ひまわり」
ゆっくりと流れる川に沿った石畳
僕は自転車に乗って毎日ここを通る
一人前になるまでもう一息だ
「家族」
これからは二人で
つつましく過ごしてゆくんだ
「記念日」
歌われるのは4分程度のワンシーン。
でもその曲の前、その曲の後を考える。
想像する楽しみ。
物語を作るように歌を作る人がいるんだ。
それも、ここから少し離れた外国の景色の中で。
21世紀を迎えて、子供も大きくなったある日。
インターネット(パソコン通信と呼ばれてたね)でバンドメンバー募集の書き込みを見た。
「小山卓治コピーバンドを結成します。メンバー募集 小山卓治を九州に呼ぼう会」
あ、ちょっと面白そう。
ギターはあるし。
バンドなんて20年ぶりくらいだけど、楽しそう。
チャットするのに「ハンドルネーム」が必要だという。
僕は何も考えず、当時やってたデザイン事務所の名前「サニーサイド」からとって
「サニー」と入れた。
今でも、そう呼ばれてる(笑)
すぐにコンタクトを取り、大橋のスタジオへ。
アンプの使い方もわからない(笑)
そのバンド「キューコ」に加入したことから、僕のアマチュア音楽人生は始まった。
2016年11月5日。
つい先日「サニーロックフェス」で大盛り上がりを見せた同じ会場で、小山卓治を見ることに。
20年くらい前、ビブレホール?だったかで「橘いづみ」がゲストのライブを見て以来だ。
キャバーンビートで共演したりの「えとぴりか」のオープニングから始まって。
いつもより、より大きく息を吸い込む彼女に緊張したりした(笑)
そして、小山卓治。
年齢を重ねてきた分、傷の増えた顔、白髪。
でも歌い始めるとすべてが吹っ飛ぶ声。
歌を作り、歌を歌う。
そんなことを何十年も続けてきた人間だけが持つオーラ。
HIMAWARIに入っていたパラダイスアレイで始まった。
「約束なんか何も交わさなかったはずだろう」
新しい歌も幾つか。
身の回りで起きたこと。
地震やテロに巻きこまれた人たちを、そばに寄り添い、また空から俯瞰して歌う。
悲しいニュースを悲しみで彩らず、生きるってことを勧めてくれる。
視点が変わらないな。
不意に、「ひまわり」のコードが鳴る。
心のざわざわが溢れてきた。
今ままで生きてきたことが誇らしくなり
音楽活動を続けてこれたことを感謝し
あのとき大好きだった人と、今夜も一緒にいられることを喜んだ。
〜ガソリンが水たまりに虹をつくる道の向こう
すすけた赤い屋根が続いてる〜
その後も新旧取り混ぜ、バンド編成でYELLOW WASPや傷だらけの天使を聞く。
ライブが終わって、キャバーンビートの町田さんに紹介してもらい、少し話した。
今日ここに、妻と二人でいれるのは、あなたのおかげなんですよ、と。
「96エーカーの森」という僕のCDも渡せた。
これは特別な夜ではないかもしれないし
また二人でライブを見ることもあると思う。
僕がキャバーンビートで音楽活動を続けていれば、もしかしたらオープニングアクトも(笑)
生きていてよかった。
ふたりでいれてよかった。
そんな夜。
ああ、全然ライブレポートにならなかった(笑)
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