パーティで女の子に話しかけるには:ボーイミーツガールの王道
あの「ヘドウィグアンドアングリーインチ」の衝撃と感動を忘れられない人への、さらに優しくわかりやすくなった「変愛」映画。「恋愛」だけじゃない(笑)
のっけからダムドで心がわく!ワァーオ。
音楽の好みはいろいろ変わっていき、今はロックバンドの音が気持ち悪い時期なんだけど、ダムド・バイブレーターズ・イーターとかのメロディのいいパンクロックはいつでも聞ける。
自転車がすべての移動手段だった中学〜高校生気分満載。
パンク好きで、でもファンジンにしか言いたいことを書けない内気な主人公エンは、女の子を求めて、パンクロックを求めてパーティーに潜り込むんだけどなかなかうまく成果上げられず。
不思議な音楽に惹かれて偶然もぐりこんだパーティで、少女ザンと出会う。まさに「ボーイミーツガール」。ところが彼女は宇宙人で、地球に居られるのは48時間。
本当にありそうな設定で、目新しいものはない。
ただ細かなディティールの積み重ねが、「忘れられない映画」を作るんだなぁという見本。
パーティで女の子に話しかけるには:空から降ってくるのは女の子
つまんない学生生活。さえない青春。
そんな中でなんとか「生きてるってこと」を実感できるのはレコードを聴いてる時と、ギターを弾いてる時。
すっごいよくわかる。
この主人公は友達数名とファンジンという自主制作のフリーペーパーを作ってる。僕も小学校の頃からそういうのを作るのが好きで、大学になってからはレコード屋さんに「会報を作らせてくれ!」なんて押しかけたりしてた。
うまく話せないことを、文章とかイラストならできる。
そんな「パリピー」になれない男子に共感が増す。
そして降ってくるのは(比喩ね)キュートでカワイイ女の子だ。パズーじゃなくてもだ。
僕らは音楽と女の子で「成長するきっかけ」と「失う寂しさ」を知る。
ラスト近く、女の子のいなくなった場所がまとめて映るんだけど。
その美しさっていったら。
女の子のいない風景。
そのさびしさ。
パーティで女の子に話しかけるには:親になってしまった・ならなかった僕ら
映画は予想通りの展開で進み、予想通りのエンディングを迎える。
しかもとびきり暖かいラストシーン。
映画のテーマはボーイミーツガールの表装をかぶった「大人になってからの個人」だった。
- 主人公エンの両親は離婚していて、母親には新しい恋人がいる
- 父親はジャズミュージシャンで、家を出て行った
- 宇宙人ザンたちの種族には「親が子供を育てて、食べる」習慣がある
- ザンは妊娠し、恋人を取るか種族の未来を取るかの選択を迫られる
- エンはザンと二人でいたかったし、父親になりたかった
大人は大人で自分の人生を歩き、人を愛する権利がある。
そして親になるってことは
- いくつかの選択で何かを諦め
- 子供を育て、そして手放す
一生懸命育て上げて、手放す。
これができるかどうかは、大人が「個人」を生きてるかどうか、だ。
パーティで女の子に話しかけるには:親にならなかった人たちの夢
ニコールキッドマン演じる地方パンク界のクイーン。
多くのパンクと友人だったり、ビビアンウエストウッドで働いてたり。
好きだと思うことをやり続け、親になることを諦めた。
- 親になることで何かを諦める
- 親になることを諦めて何かを続ける
実質として「産む性」である女性はもちろん、男にも選択する時が来る。
主人公のエンの父親は親になって、親を放棄して、JAZZへ戻ったのかもしれない。
ぼくら50代にはもう「おじいちゃん」になってる人もちらほら。
遺伝子をつなげていってる人たち。
パンクロックを作り出した親たちは今どうしてるんだろうか?
パーティで女の子に話しかけるには:肌と体液と性器
この映画の面白いところは「ゲロ」だ(笑)
異物を飲み込み、対処できなくて、吐く。その瞬間「まだ生きてる!」と思う。
初めて世界の異物と対峙する時。
親の庇護を離れて、直面する時。
ゲロ吐いて当然だ。
かたっぱしから食べて、吐く。人生ってそんなもんで、その初めてのピークがティーンエイジだと思う。
パンクロックを始め「好きだ!」と思うことを原動力、もしくは覚せい剤として使ってやってみる。
パンクロックは体液だ。
汗が飛ぶ。唾を吐きかける。
自分の体が生み出した「小さなもの」を相手にぶつける。誠実な音楽。
パーティで女の子に話しかけるには:モメそうな時はお茶会を
パンクロッカーと宇宙人が対峙して、一触即発。
そんな時こそ、ティータイムだ。
このシーンが特に好き。
休戦してまずお茶を飲む。
組織の一員としてでなく、個人としての思想や迷いをぽつぽつと話す。
異物を飲み込み吐くのが子供なら
異物をそのまま認めるのが大人かもしれない。
性的マイノリティーや民族、性別、年齢差、経験値。
いろんな壁を作って身を守ろうとするぼくらに
「まずはさ、お茶でも飲もうよ」とジョン・キャメロン・ミッチェル監督は言ってるよう。
そう、ヘドヴィックの頃から変わらない。
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