ブルックリン:感想【シアーシャ・ローナン。ビーチと人生とダンスホール。】故郷を出た人、出なかった人へ。

ブルックリン:故郷を出る人、出たことのある人へ。

巷ではゴジラが大暴れしていて大評判。
だけど今日はこの映画を見に来た。

名前を覚えらえない美少女「シアーシャ・ローナン」がアイルランドからブルックリンへ働きに出る。そこでの日々を描いた映画。

ハンナとかラブリーボーンで凄まじく透明感のある美少女だったシアーシャ・ローナン。この「ブルックリン」では、華奢だった面影はなく、割とゴツめの腰の「働く女性」に変身していた。

故郷では仕事がなくて、閉鎖的な街も嫌いで。
それを姉は理解してくれて、夢の国アメリカへ送り出してくれる。
住む場所と仕事を見つけてくれて。

1950年代の移民がどのようなものかはよく知らないけど、彼女のように「恵まれた旅立ち」の人は少なかったんじゃないだろうか?

それでも戦わなきゃいけない。

荒れる海での船酔いに。
入国審査で。
初めての場所で先輩たちと。
仕事場で上司や、お客と。

見たこともない高層ビルと、あらゆる人種が渦巻く大都会。
そこで孤独と戦って、孤独と話し合って折り合いをつけていく。

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ブルックリン:キャストの多さと、それぞれが生かされてる脚本

故郷アイルランドの母、姉、友人、フットボール選手たち。
地元のドン気取りの嫌な人。
ブルックリンでの寮言う。寮長さん。
職場での上司。お客さん。
仕事を世話してくれた神父さん。
ブルックリンに住むアイルランド人ホームレス。
そしてイタリア人彼氏と、その家族。

多くのキャストが2時間の映画の中で、誰にも一瞬スポットライトが当たる。
過不足なく散りばめられたエピソード。
この脚本はすごい。
話は淀みなく、見るものは持っていかれる。
キャラクター以上の出しゃばりな役者はいない。
見るものの感情に任せて「泣かせておこう〜」っていう浮ついたシーンもない。

シアーシャ・ローナンは劇中、何度も泣く。
悲しさから、寂しさから。
彼女の泣くタイミングが、素晴らしい。
僕らが事柄を理解して、感情がざわつき始めてから、泣く。

大人なら誰もが経験したであろう事柄を、感情を、きちんと思い出させてから、泣く。
だから、心が持ってかれるんだ。

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ブルックリン:都会に集まる地方出身者たちの鎮魂

クリスマスにホームレスに食事を配るボランティアをする。
集まる老人たち。

彼らはアイルランドからやってきて、この国の道路を作り、トンネルを掘り、アメリカ人のライフラインを泥だらけになって作った。
彼らの未来は、神のみぞ知る。

使い捨てられる労働者。
歌われるふるさとの歌。
このシーンのリアリティは、ポン=ヌフの恋人以上かも。
静かな寂しさと、老人の顔。
台詞もないその労働者たちが、歌を聴いて心に思い描いている風景まで見える。

光さすビルディングの影。そこにいる人たち。

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ブルックリン:コニーアイランドとふるさとの海

この映画には分かりやすい比較もたくさん。
地元民だらけで誰とも出会えないふるさとのダンスパーティと、新しい出会いを求めて男と女が集まるブルックリンのダンスホール。
ここで初めてダンスを習い、イタリア人彼氏と出会う。
優しくて少しばかり内気な配管工。

サングラスと最新の水着(あらかじめ服の下に着ておく)で、場所を取るのも大変なコニーアイランド。カラフルな色の洪水。
ここは紛れもなく「観光地」。人々が憩いを求めてやってくる恋と娯楽の街。
このシーンはシアーシャ・ローナンがまだアイルランド人の目線で、「ブルックリン=アメリカ」を外から眺めるツーリスト的に描かれていて、驚きとワクワクに満ちている。

帰国して地元の友人と静かな海へ行く。
広がるビーチ。美しい白波と砂浜。心地よく吹く風。
ここではもう「ブルックリンで働く女性」が、里帰りして故郷の良さを思い出す。
彼女はもうアメリカ人なんだ。
もう、引き返せない。

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ブルックリン:故郷を出られない人への愛情こもった視線

田舎の閉鎖的で、高圧的な上下関係。しがらみばかりの人間関係。
そんなものが嫌で飛び出した彼女。

出て行くということは、残す人がいるということ。
残される人の悲しみ。お母さんの悲しみ。
でもそれぞれの人生。
何かを捨てないと手に入らないことばかり。
人はどちらかの道しか進めない。

外へ出てみたいと願う、地元の裕福な男性。
家柄も良く、両親も健在で。誰もが羨む人生を歩んでいるように思える。
でも彼は「このままアイルランドで死ぬのか」と自分の人生を恐れてる。

出る勇気をたたえながら、出られない人たちの強さも弱さも描く。
やるもやらないも人生。だったらやってみたほうがいい、だけじゃなく。
それぞれの人生に光を当て、影も作る。

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20代の頭。バイトして作った100万円を手に東京へ行った。
故郷が嫌だった。
八重洲口からずっと広がる灰色の街を見ながら「なんてこった!やばいところに来てしまった」と思った。
入国審査はもちろんないけど、別の国だった。夢の国。

 

故郷を出た人、出なかった人に贈る、今年いちばん(現時点)の映画。

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