エディ・レッドメイン。美しくて悲しい笑顔
あまり情報をもたずに見た。
この年代の衣装が好きなのと、トムフーパー監督の「レ・ミゼラブル」「英国王のスピーチ」どちらもすばらしい作品だったので。
さらに妻が「リリーの髪型にしたい!」と言ってヘアカットに行ったのを見てね。
世界で始めて性転換手術を受けた画家の物語ってきいてたから、マイノリティとして生まれた主人公が、本当の自分を探し、渇望し、手に入れる・・・的な話と思っていた。
でも実際の映画の主題は
「愛する人の求めること」と、「自分が愛する人に求めること」が180度違っていたら、相手の願いをかなえてあげられるか?っていうものだった。。
主役のリリー(エディ・レッドメイン)も素晴らしかったけど、これは妻であるゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)の映画。
アリシア・ヴィキャンデルの苦しみと悲しみ
ゲルダにとって愛した男、結婚した男は男であることを呪っていて
彼の望みは「自分が愛した男を消すこと」
彼の望みをかなえようとすると、一緒に絵を書いたり、シャンパンを飲んだり、パーティーにでたり・・・
そういうことは一切できなくなる。
1920年代のデンマーク。いまのようにマイノリティーに理解があるわけではないし、医者に診せて治療しようとすることは監禁、隔離と等しい。
どうする?
鏡に向かって笑いかける
足をそろえてすわる
いまわしい男性器を隠す
のぞき部屋で女になりきろうとする
そんな彼をどうしたらいい?
愛する男は「まちがった身体」を与えられてる。
「ただしい身体」を欲しがってる。命をかけても。
君が望むものをぼくは与えられない。ほんとうにつらい言葉。
わたしが望むことが「罪」なのだろうか?
「わたしはあなたと夫婦でいたい」という望み。ごく一般的な望み。それが愛する彼にとって一番の苦しみとなる。その苦痛。
いらだち、懇願し、泣く。それでもゲルダは彼のそばにいる。
天井からつるされたチュチュ
シルクのドレス
ファー
ハンガーのあたる音
ストッキング
美しいシーンが並ぶ。そしてそれらはリリーの望むものすべて。
結婚する前の思い出の風景を描きつづけるリリー
自分の心を過去のものとするために?それとも美しい思い出の中でのみ生きようとしているから?
リリーの炎がふたたび燃え上がるようになったきっかけを与えてしまったゲルダの気持ち。
「あの時、モデルのかわりをして、なんて言わなかったら・・・」
「ストッキングとヒールをはいてくれと言わなかったら・・・」
最初から僕の中にあったんだよといわれても、後悔は消えないだろう。それこそが罪だと感じて、リリーを支えていたのかもしれない。自分がやってしまったことだ、と。
デンマークの女の子、リリーのすべて
ほんとうのリリーは5回の性転換手術で子宮をてにいれ念願の「母の身体」になれたという。
身体の痛みはものすごかっただろうけど、心を押し殺すことよりもマシだったんだろうか?
事実と映画を比べるのはナンセンスだけど、ゲルダはリリーと離婚、再婚したらしい。なんだかほっとする。
映画のラストシーンの開放感。
死ぬよりもつらい、ウソを生きることからの解放。
この世界から解き放たれたストール。美しく飛んでいく。
もうね、中盤から泣きっぱなし。リリーの空っぽな笑顔に、ゲルダの苦悩に。
映画の中でも、ふたりは涙を流す。
すっと流れる涙。
怒りや悲しみで爆発する涙。
相手を愛してるからの涙。
どれも自然な涙。
物語上のご都合涙じゃなく、感情に突き動かされる人間の涙。
のぞき部屋でガラス越しの女のまねをするシーンなんて、普通なら大好きな世界なのに(笑)もう涙でにじんでどうにもならなかった。ちゃんとDVDで見直そう。
リリーの死ぬシーンでは、「よかったね」なんて思って泣けたし。
ベッドに薄い布をひいて寝てる二人も泣けた。戻れない日々を痛感するゲルダに泣けた。
全体的に妻目線がほとんど泣けて。
ひさびさ。こんなにボロボロ泣いたのは。
観るかたはご注意を。
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