立花綾香:アクアリウム小噺【クジラ雲と夕陽から東京水槽へ】あの日見た夕陽は今、ジュラルミンシティを静かに照らす

立花綾香:発光ダイオードの1秒

夕陽が沈む。今日が終わる。
朝、目を覚ました時に抱いた決意はバラバラになり、
どんよりとした頭痛はそのまま残されてる。

今日が昨日へ、明日が、今日へ。
無慈悲で正確なリズムで時は流れていく。

 

「あなたにも1秒、私にも1秒」

 

本当にそうなのだろうか?
巨大スクリーンに映し出される笑顔の彼女と
唐揚げ弁当を待つ僕の一秒は同じなんだろうか?

足早に交差点を渡る人の波を見下ろしながら、賑やかな音楽とともに笑う彼女。
よく見ると、小さな発光ダイオードの集まりだ。
キラキラと輝く無数の小さな光が、笑う彼女を作ってる。

 

 

立花綾香:クジラ雲と夕陽

最後の足掻き 爪痕残したいから
強がって少し 歌わせてくだしゃんせ

立花綾香はピアノを叩き、叫ぶ。
沈みゆく夕陽を止めようとするように。
喉を震わせ、髪の毛を振り乱し、体を削りながら輝こうとする。
LEDの光ではなく、ヘモグロビンの赤を、燐と燃やす。

最終電車は日付を変えるマジック。
昨日と今日が入れ替わるはずの深夜、長いトンネルの中で時間は止まる。
今日あったことと、明日あるかもしれないことがごちゃまぜになる。

立ち尽くしていればその痛みによってまだ意識を保てるけれど
柔らかく暖かい椅子に座り込んでしまえばもう、終わりだ。

 

ああ、私はどこへ行こうとしてるのだろう。
右も左も、上下さえも感覚を失ってゆく毎日。

頭の中のGPSは誰かに操作されている。
「そっちの水は、苦いよ」と
かつてあちら側にいた人たちが囁く。

 

 

 

立花綾香:大都会東京今昔物語

毎日毎日、誰かが決意を固め、覚悟を決め、誰かと別れ、「夢の入り口」を目指し、集まる街「東京」。

夢の扉を開けようとする人たちの長い列が今日も動き始める。
僕も昔、その一つの泡だった。

 

昭和がら平成へと時代が変わる中、夢と野心を持って東京へ行った。
故郷に愛する人を残して。
夢を叶えるための挑戦状と、ニセモノの紹介状を持って。

 

初めて新幹線で東京へ行った時のことを覚えてる。

「次は東京」

アナウンスが聞こえてからもうずっと新幹線はノロノロ運転で、窓の外は延々と繰り返されるビルディングの直角。東京はただただ灰色。僕は車窓から何十分も見上げていた。

「大変だ、えらいところに来てしまった」

僕の生き物としての直感は恐怖と好奇心のアンテナを振りかざして、この街の電波をとらえようとした。
必死で働いて貯めたお金は、家を借りて、生活のための最低限の武器を揃えただけでなくなった。文字通りゼロスタート。
毎日1時間30分かけて通い。高すぎるランチにギブアップして自炊を始めた。

世の中にはまだ、パソコンもスマホもなく、遠い空の下で生きる人との連絡は公衆電話と手紙だった頃。

 

立花綾香:夢以外は簡単に手に入る。

時代は変わり、すべての情報は吟味され、体験する前から結果は予想でき、大きな失敗を経験することなく生き延びれるようになった。
知らないことは人工知能が答えてくれるし、音楽はyoutubeが勧めてくれる。
本だって自宅にいながら探せるし、試し読みもできる。

手に入れるまでに何度も試せるから、ハズレをつかむことは少なくなり、世の中全てがわかったような気分になる。

「夢」以外はなんだって手に入る。

 

立花綾香は、唯一自分で扉を開けなければ手に入らない「夢」を掴むために、この東京の飛沫の一つにエントリーしたのだろう。
でも手に届くと信じた夢が、オアシスの蜃気楼のように遠くなる時がある。
毎日届く「希望」と「絶望」のダイレクトメールは自身を揺るがせ、でも奮い立たせる。

見たい景色がある。
見たい明日がある。

さあ行こう!と飛び立ったつもりが、さらわれた金魚で、落とされた場所は水槽だった。

誰かの余裕の元、よしよしと餌をもらい、ふわふわと重力を感じず生きる。
自分で水底から浮かびあがろうとする「飛沫」でさえない。

逆流のない淀んだ水の流れの中で、口をプカプカと開けたり閉じたり。
キレイと言われたり、かわいいと言われたり、癒されるね〜と言われたりする。

でも、彼女の望んだものはそんなものじゃなかった。

 

立花綾香:ここ大都会「東京」は水槽。

東京水槽の中で、三度、このフレーズが歌われる。
上へ、上へ、さらに上へ。
ゆらゆらと揺れる一筋の光に向かって登って行く。

マトリックスな世界で、自らプラグを抜き、リアルを求めて生きるために。
あの日、クジラ雲を見上げ、夕陽を見送り、人に肩をぶつけられよろめいた少女は再び立ち上がる。
あの頃と同じ不安、あの頃と同じ水平線。
あの頃と同じ夕陽。
あの頃と同じ希望。

 

私にしかできない今を行こう。
私の居場所はここじゃない。
さあ行くよ。

2016年に再び叫ばれたこの言葉は強くしなやかだ。

立ち止まり、塞ぎ込み、振り返り、奮い立ち、歩き始めた一人の人間の葛藤の後、再び発せられた言葉だから。

バーチャルでない経験をつみ、間違いではなかったと確信した言葉だから。

 

東京水槽の中で立花綾香は、昔の自分に「ごめんね」という。
消え入りそうな声で。
それは言葉通り「忘れていてごめんね」という意味と、「また気づかせてくれてありがとう」という意味があるのではないだろうか。

自分の泳いできた道を評価するのは難しい。
覚えてるのは体の痛みと、
心の痛みだけだから。

彼女が過去の自分に「本当にありがとう」と言える日はもう少し先になりそうだ。

 

 

 

立花綾香:夢の飛沫が集まるところ

東京。
多くの人が夢の種を持って集う。
花を咲かせようとして、水をやり栄養をやる。
花が咲くかはわからない。
本当に自分の花かどうかもわからない。

それでも向こう見ずな若さは花咲く日を信じ、今日も人の波に消えてゆく。
すべてを飲み込んだこの東京という怪物はどれほどの人の夢を食べて生きてるのだろう。

 

「お前なんて、どこにでもある夢のかけらを持った一粒だ」
「毎日毎日顔が変わるだけの、夢見る飛沫だ」

 

かつて夢見る飛沫だった人や、飛沫だったことを忘れてしまった人は言う。
願いは叶わないと。

でも、日本中からあつまる夢の飛沫が、この大きな街の小さな窓明かりだとすると
とても素敵だと思わない?

東京で孤独を感じてる飛沫たちよ。
君たちは一粒じゃない。
天の星よりも多い、この東京の星だ。

 

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