映画『ドリーム』ネタバレ感想 原題は『Hidden Figures』

映画『ドリーム』 私たちがNASAに雇われたのは、眼鏡をかけているからよ

の続きです。

ここからネタバレ色が強くなりますのでご注意を。

キャサリンは3人の娘を産んだあと夫と死別している。軍人出身のジムが彼女に興味を持って近づいてくるが、「女なのにそんな仕事…」と思わず口走ったとたん、キャサリンの厳しい返り討ちにあう。

「私たちがNASAに雇われているのは職場の花としてなんかじゃない。メガネをかけているからよ」。

彼が「ごめん、男だらけの職場にいたから女性との会話に慣れていなくて…」と謝れば、「いい訓練になったわね」と言い放つ。

同じ黒人という人種の、しかも個人対個人であれば、毅然と、ユーモアまで交えてこんなふうに言い返せるキャサリンも、職場という社会ではなすすべもない。

数学の能力をかわれて転属になった花形の部署では、黒人女性である彼女を見た瞬間にゴミを押し付けてくる職員がいる。清掃員と勘違いされたのだ。
部屋のコーヒーサーバーには、2日目に「colored(=非白人用)」とラベルのついたものが用意される。
非白人用のトイレに行くためには、いったん外に出て駐車場を抜け、非白人グループが働く棟まで走らなければならない。

当時、宇宙進出の分野では、冷戦構造の中でアメリカとソ連が激しい競争を繰り広げていた。ソ連のガガーリンが人類で初めて宇宙飛行を行い、アメリカは大きく落胆、キャサリンの部署のボスは部員たちに檄を飛ばす。

そんな中、仕事中にたびたび長々と中座するキャサリンは、ボスに激しく叱責される。大雨の中、びしょ濡れでトイレから帰ってきたキャサリンは、みんなの前で初めて憤りをぶちまける。

「非白人のトイレはあんなに遠くにしかない。
身を粉にして働いても黒人である自分は常勤になれない。
私のコーヒーサーバーに誰も指一本触れない。
オフィスでのアクセサリーは真珠のみ可というけれど、私たちの給料で真珠なんて買えるわけないじゃないか。」
と。

「・・・だから許してください。1日に何度かトイレに時間がかかるくらい」

それを聞いたボスは心底驚いた顔をするのだ。
彼女のためのトイレがこの棟にない、なんて、“差別する側”である彼は、想像したこともなかったのだ。

写真 dream3

宇宙での有人飛行計画は、人類の進歩の象徴だ。
進歩を支えるのは、ロケットの飛び出し角度やスピード、着水地点を算出する計算であり、
その計算を支えるのは人である、
・・・という図式をこの映画は示す。

IBMのスーパーコンピューター(?)が登場する時代。
1秒に膨大な計算ができる機械があっても、それを動かすのは人である。

必要な数式がどうしても見つからないとき、キャサリンは古い方法を使い、うれしそうに言う。
「理論よりも数字のほうが頼りになる。数字は嘘をつきませんから」

自然そのもの、実体そのものである数字に対して、理論とは人間が作り出す解釈・概念だから、限界や偏見が起こりうる・・・ということではないだろうか?

飛行計画はギリギリまでさだまらず、グレン飛行士は
「自分が機械(ロケット)を飛ばすはずなのに、まるで自分が機械に飛ばされるような気がしてきたよ」
と不安を漏らす。彼はついにキャサリンを指名し、
「やっぱり頼りになるのは、人だ」
と言う。
ややもすると陳腐なセリフが響くのは、やはり宇宙や数学が示唆するものを感じるからだ。

初めて宇宙に飛び出すアメリカ人になろうとしているグレン飛行士は国の英雄だ。
NASAに到着して職員の歓迎を受ける彼は、白人グループだけでなく、黒人グループの方まで行こうとする。「ここまでで結構ですよ」と(もちろん白人に)制されても、

「でも、あっちにも“人”がいる」

と言って、キャサリンたちの手を握り、話しかけるのだ。彼は、白かそれ以外かで“人”を分けなかった。「前例を作る」人の稀有な(でも、考えてみれば実にまっとうな)感性を表現する描写だった。

どうしても計画を成功させたいという人々の悲願が、白人と非白人の間にあった分厚い壁を取り去っていく。宇宙計画と同じく、差別がなくなるのは人類の進歩である。

でも、なぜこのころの米ソが宇宙開発に熱狂したかというと、つまりは軍拡の争いであり、仮想敵である相手国に後れをとれば自国が破滅するという恐怖心からでもあった。
・・・という両面性をサラリと描いていた気がする。

それでも、ということなんだろう。映画の中のマーキュリー計画は、有人ロケットが地球の周囲を3周するだけ(←21世紀の今やそういう感覚だよね)。それでも、

「心はもう月に行っている」

という思いを、キャサリンと、白人男性であるボスは共有する。進歩(夢、と言い換えてもいいかな)への情熱がある限り、私たち人類は必ずそれを達成する。その夢を私たちは共有できるし、夢は私たちを包摂していく。

宇宙を指向する壮大なその会話と、ラスト近くに挿入されたささやかな1コマとは、心地よいコントラストをなすと同時に、共に未来への明るい予感を思わせた。

本作の原題は『Hidden Figures』
直訳すれば、「隠された文字(姿)」かな。

劇中、キャサリンが報告書に自分の名前をタイピングして、「君の名前は要らない」と何度も却下される姿は、人種差別にとどまらない、象徴的なシーンだったように思う。あるよね、こういうこと。

最後には、却下していた彼と連盟になっているレポートが映り、そして史実の説明がある。キャサリンはその後もすばらしい仕事を重ね、ついにはNASAの計算センターにその名が刻まれたという。

 

3人のヒロイン女優達のドレスアップ。かっこいい!

 

『ドリーム』とはまた、まったく明るく輝かしい、よって少々の薄っぺらさと、うさんくささを感じる邦題だが、確かに明るいこの映画が『Hidden Figures』という陰りのある原題をもつことに思いを馳せる。隠された姿、顧みられない影の人々は、キャサリンたちや肌の色の問題に限らず、いつの時代にもさまざまな形で存在するのだ。

キルスティン・ダンスト演じるミッチェルが、3人のヒロインの1人、ドロシーに向かって言う。

「ねえ、誤解しないでね。偏見があるわけじゃないのよ」
ドロシーは
「わかっています・・・そう思い込んでいることは」
と答える。

マジョリティやエスタブリッシュメントであるがゆえに、無意識のうちに“差別する側”に立っている。彼らは、影の側の人々の傷や怒りに気づかなかったことを決して断罪されはしない。その残酷さを思わせる作りだった。

影の人々が、傷つき、屈辱に震え、犠牲を払いながら闘わなければならないのは、とても残酷なことなのだ。だから“差別する側”になりかねないという恐れを胸に、せめて、いつでもHidden Figuresに対する目をひらこうとしていたいね。

 

【308号室】エミの moonshine 離れ





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