文字を覚えたジプシーの少女。
風の歌を言葉に残す。
人形(パプーシャ)」と名付けられた少女はある日、泥棒が森の木の洞に隠した盗品を偶然見つける。パプーシャはそこにあった紙が気になった。そこには文字が印刷されていた。
文字はガジョ(よそ者)の呪文、悪魔の力だと、ジプシーたちはそう忌み嫌ったが、パプーシャは文字に惹かれる心を抑えられなかった。パプーシャは町の白人に読み書きを教えて欲しいと頼み、文字を覚えてしまう。
詩人パプーシャの生涯を美しすぎるモノクロームの世界で描き出す。傑作。
語りすぎず、演技すらしない。
怒り、争い、ハグする。
壊し、燃やし、正気を失う。
突き放した映像。完全固定カメラ。現代の映画術、映画サービスからかけ離れた作品なので、「映画が何か楽しませてくれるだろう〜」なんて考えの人にはまるで向いてない。
でも、圧倒的に美しい絵画のような絵柄と、音楽は、僕らの五感を刺激する。
雪の轍や白樺の森の絵柄。
こんな美しく冷たい、雄大な風景を見たことがない。
新しい映像発見。
CGを多用しているらしい。当然そうだろう。ありえない風景が広がるから。
でもかつて、そこにあったような堂々とした自然と人の営み。
ジプシーは自分たちの歴史と言葉を持ち、よそ者と相いれない。
とはいえ、世界はほとんどがよそ者。
よそ者の道を歩き、よそ者の土地に眠る。
戦争により時代が寛容さを失っていく。
自分とは違うものを「違う」とだけ認識して認めることはできなくなってくる。
定住して職に就き、自分たちのカリキュラムで子供達を育て、社会に一員となり納税させる。これは国という組織の最終目的。
そこからあぶれたもの達には容赦しない。
よそ者はよそ者で、自分たちは優れていると思い込み。
世界の外で生きてるように振る舞う。まるで思春期の子供のように。
旅をして生きる者達の中にも、世界と交わりたいという欲求が生まれる。
少女は「文字」を通じて自分の暮らす世界を描きたかっただけなのに。
歴史や文化は「記された時」形を変えて、終りを告げるのかもしれない。
当事者でない者は、そのことを本当に理解することはない。
世界を知りたい。
その欲求から壊れていくコミューン。
時代は変わって、多くのものが失われ、多くのもが再生され、思いもつかなかった新しいものが生まれる。
時代が取捨選択を迫り、僕らは何かを明確に選ばなければならない。
美しくて厳しい映画。
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