ジンジャーの朝 ~さよなら、わたしが愛した世界:感想【冷戦とポエトリー】耐えられない地獄はすぐそばに

 

ジンジャーの朝 ~さよなら、わたしが愛した世界:相変わらず説明過多な邦題(笑)

エルファニングまつり継続中。
彼女の映画にハズレはない(見てるものだけね笑)スーパー8でボロ泣きさせられてから、現在まで、ほんと「映画に愛されてる女優」だなぁ。

この「ジンジャーの朝」は、伝説の「オルランド」を監督したサリーポッター。
彼女らしいキレのいい批判精神と、どこを取っても美しく悲しい映像で、もうこりゃたまらんとい感じです。

後ろの壁紙ひとつ、遠くに見えるキッチン用品一つ、窓の外の風景、ジンジャーのもつ手帳の紙のめくれかた。
全てが完璧。

 

ときは1945年。広島に原爆の落ちた年にうまれたジンジャー(エル・ファニング)とローザ(アリス・イングラード)。
ロンドンの同じ病院で生まれたふたりは双子のようになかがいい。
母親のナタリーとヌシュカも含めた一つの家族のように育っていく。

ローザは父親に捨てられ、ジンジャーの父親は「パパ」と呼ばれることを嫌う芸術家。

ロックンロールの波がおしよせる1962年。ふたりは16歳になる。
アメリカとソ連の冷戦が続き、ラジオからは「核爆弾での死傷者予想」が流れ続け、世界中が核兵器の脅威に怯えていた頃のお話。

 

 

ジンジャーの朝 ~さよなら、わたしが愛した世界:父親の存在の耐えられない軽さ

ジンジャーのパパ、ローランド。
平和主義者で芸術家。娘が遅く帰ってきても怒らない。ローザとも仲がいい(まあ、色目使ってるんですがね笑)

芸術家同士で結婚して、娘を育てるために絵をやめた母親。
娘に苦労させたくないと願う。

でも娘はちゃらちゃらした理想主義のパパが好き。
パパは生徒の若い娘にも手を出してるふうで、家庭内はうまくいかない。

 

そりゃこのお父さん、稼ぎはないし、家にももどらずボートに逃げ混んでるどうしようもないおっさん。だけど、いい男。
この映画の肝は「この自由なイケメンパパ」を許せるか?によるかも(笑)

あ、許せないとすごくもりあがるし、許せるとしみじみする。

 

60年代の当初って、こういう「アート思考」が一般レベルにおりてきて、勘違いしたエセ芸術家がたくさん生まれて、たくさんの悲劇を産んだと思う。だからこそポップアートが花咲き、アートというなの自己表現が可能になったんだとおもう。

同時にまだ「子育ては母親の仕事」でもあるから、そこに亀裂が生じる。
母親(いい母親なんよ)の目線で、物語を見てしまったなぁ。

 

ジンジャーの朝 ~さよなら、わたしが愛した世界:娘の友達とセックスするおとうさん

ジンジャーはローランドの

「活動家であれ 懇願者でなく」

という言葉を信じ、影響を受ける。
反原子爆弾集会に出席し、デモで逮捕される。

それまでにも友達と父親がイチャイチャしてたり、友達は「神様に祈ること」しかしないのに腹を立てたり。
情緒が不安定で、不安にさいなまれてる。
その不安をうけとめるのが「核兵器により世界の終わり」という、リアリティーのあるファンタジーだったんだとおもう。

じぶんのそばで起きている耐えられない事実から逃げるために「核兵器廃絶」という行動に逃げる。
にげなきゃ、こころがこわれてしまう。
にげなきゃ、自分自身が爆発してしまう。

その緊迫感と、感情をおさえてはこぼれる様が、ほんとうに素晴らしい。

 

 

ローランドパパは子供にもてるだろうなぁという印象。
優しくて、イケメンで、ロマンチックで、影がある。
投獄されていたとかいうエピソード、ティーンエイジャーにはたまらんよね(笑)しかも、お父さんに去られて心に傷を持ってる娘なんてお茶の子さいさい。

その辺を狙ってやっちゃってる感が前面に出るいい演技をするんだ。このアレッサンドロ・ニヴォラという人は。

 

 

ジンジャーの朝 ~さよなら、わたしが愛した世界:結論;エル・ファニングは天使。

エル・ファニングはつらい現実をリアリティー持って演じながらも、ファンタジックさも捨ててない。
赤い髪の毛が逆光で輝く様や、への字口からくしゃくしゃの笑顔まで。
重さと軽さを行き来する。

どの映画もちがう役柄で、そのキャラクターに命を吹き込みながらも、こちらの感情を移入させる隙間をつくれる天才だ。
女の子二人という、僕に取って最強の設定で、予想の数段うえをいく演技と映画。

サリーポッターの素晴らしさは

「女流画家、女医、女流作家なんて、一言多いよね」というフェミニンな視点が一貫してるところと、ダンサーだからかもしれない「光と影が表す肉体の動き」について完璧なところ。

 

ラストシーンの慈愛にみちた、しかも過去を振り返らない強さ。
悲劇を乗り越えていく強さ。

初々しい映画の始まりのシーンとは顔が違う。
エルファニングはいま、世界一の「若手」「女性」俳優だ。一番嫌な言い方をすれば、だ。

これからも素晴らしい審美眼で作品をえらんでいって欲しい。

 

彼女の活躍を見ると、日本映画の若い女優さんが不憫でならない。
軽くて消費されるだけの恋愛映画か、一瞬の話題性か、重くてエンターテインメントとはいえないくらいのマニアックな映画しかないから。

 

【710号室】映画見聞録~映画が大好き~2019





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