『羊と鋼の森』という灯台

2015年の私のベストワン小説は、迷うことなくこの作品でした。

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『羊と鋼の森』 宮下奈都 著

 

読みながら、私はこれから先、何度もここに戻ってくるんだろうなあ、と。
これからこの物語は人生のかたわらにずっとあって、たまに寄り添ったり背中を押したりしてくれるんだろうなあ、と、そんな風に思うような一生モノの小説でした。

主人公の外村は高校二年生のとき、体育館のピアノを調律しにやってきた男性、板鳥と出会う。
彼の調律に魅せられた外村は専門学校に通い、やがて憧れの人と同じ楽器店に就職する。
板鳥との出会い、先輩調律師たちとの出会い、さまざまな顧客との出会い。
そして、まったく違ったピアノを弾くふたごの少女、和音と由仁(ゆに)との出会い。

外村くんが一歩、一歩、踏みしめるように調律という奥深い森を進み、成長していくさまが描かれてゆきます。

まず、文章がただただ美しくて。その中にいるだけでものすごく幸福な時間でした。
宮下奈都さんに見えているとてもきれいな世界を、小説を通して体感させてもらいました。味わう、という言葉がとても近いような。

そして、その美しい文章に宿る「意志」にまた、読みながら何度も何度も心を掴まれていました。

 

~以下抜粋~
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「こどもかよ」
 こどもだなんて言われたのも、生まれて初めてだった。そうか、こどもか。ふ、と笑みが漏れる。なんだか気持ちが軽くなった。そうか、こどもか。わがままか。
(中略)
 わがままが出るようなときは、もっと自分を信用するといい。わがままを究めればいい。僕の中のこどもが、そう主張していた。
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「ピアノで食べていこうなんて思ってない」
 和音は言った。
「ピアノを食べて生きていくんだよ」
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~以上~

 

とても静かで、だけどとても強くて、なにより澄んだ小説です。

外村くんの道のりを、私はいつのまにか「書く」ということに重ねていました。
ストーリーはもちろん、この小説そのものが、自分が理想とするあり方をまさに体現してくれていて。

言葉は、音楽を鳴らすことができる。
言葉は、香りをたちのぼらせることができる。

文章を書く、ということのはじっこにようやく触れて、手離すまいとぎゅっと掴み始めたばかりのような自分にとって、この小説は道標であり希望でした。

きっと、読む人によってそれはいろいろなものに変わって、この物語はたくさんの人の人生に重なってゆくのだろうと思います

 





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