リバース・エッジ:感想【行定監督がキチンと作った彼の映画】岡崎京子のドライをかなぐり捨てて日本映画の過剰なウェットで勝負した良作

リバース・エッジ:岡崎京子の漫画を映画化するなんて無謀すぎる

なんせ、岡崎京子は時代を作り、時代を殺し、時代から殺されそうになったところをなんとかすり抜けてきたくらい90年代と切っても切れないから。どうやっ立って今は2018年。21世紀。
山田くんやハルナの生きていた時代よりずっとずっと生きにくい時代。
ここで描かれてく苦悩なんて「テレビドラマ」程度のもん。

映画がしてうまく行くわけがないし、今の日本映画じゃ無理。
と思ってた。

先に食い物にされたヘルタースケルター。
岡崎の漫画の中でも「映画にしやすい」と思われていたこの作品。
蜷川実花の才能を不完全にしゅんとさせる。
大衆的なことが大好きなサラブレッドも、岡崎の壁を壊せなかった。
自分の持ち味を出そうとして力んだ挙句、力尽きた。

だから劇場に行くのをためらっていたら、あっという間に終わった。
この映画が惨敗で打ち切りになるところを見ると、「あ、これ、よかったのかも」と思えた。
99%のクソを上映する(その中の1%はこの世界の片隅や、今話題のカメラをなんたら。でしょう)映画界に認められてたら多分DVDも見なかった。

でも、ポスターとか見て山田くんの再現度はすごいなと思った。

リバースエッジはヘルタースケルターよりも日本映画ぽい。
しかも女優は二階堂ふみだ。時々禊ぎのようにクソ映画に出ながら、いい具合にやりたいことをやってる。
暗さと売れなさが染み付いた女優。

で、見て見た。
行定勲監督の作戦は大成功。
映画としても、まあまあいい映画。

ホッとした。

リバース・エッジ:土居志央梨、森川葵。トップスターじゃない人が出てるだけで「いい映画かも」と思うキャスティング

登場人物は

若草ハルナ(二階堂ふみ)
物語のヒロイン。母子家庭で暮らす。観音崎と交際中。

山田一郎(吉沢亮)
学校でいじめを受けている。周りに隠しているが実はゲイ。

観音崎(上杉柊平)
ハルナの恋人で、山田を執拗にいじめている。

吉川こずえ(SUMIRE)
ハルナの一年後輩。現役のモデル。

ルミ(土居志央梨)
ハルナの友人。観音崎を含めて多くの男性と交友している。

田島カンナ(森川葵)
山田の恋人。山田にとっては自分の指向をカモフラージュする存在。

 

ね。
ここには人気エセ俳優も、ドラマボンクラもいない。
つまり、客寄せパンダがいない。

このキャスティングからも「彼のやりたいこと」がわかると思う。

 

最初「う〜ん。二階堂、ちょっと無理がある?」「え〜吉川こずえに華がない〜」とか思っていたんだけど、どんどん良くなってきた。それよりもなによりも、この映画は「画角」の勝利だと思う。

 

リバース・エッジ:昔のテレビのスタンダードサイズで描かれるその時代のドラマ

そうTVのように真四角に近い画角で、この物語は語られる。
見るだけで、その当時の気分になる。

これはアイデア賞。力づくで1990年の真っ暗闇を映し出す。

まだきっと「片親」というワードが一般的でなく、すごくマイノリティだった頃。
立ち入り禁止の立て札が、自由をゆるく拘束してした頃。
スマートフォンという絆でがんじがらめじゃなかった頃。

未来は見えなかったけど、絶望も良く見えなかった頃。

そんな時代に引き摺り込んでくれる。

 

岡崎京子のリバース・エッジは漫画だからこそのゆるさと、ドライさがあって。
何もいいことが起こらないってことが前提の諦念がベースにあるし、彼女の描く凄まじくラフな線が、書き込まれない背景が寒々しい物語を描いていた。

でも映画だ。
カメラの向こうにあるものは全部映ってしまう。
その「情報量が多くなりすぎる、わかりやすい映画」を拒否するのにこの画角は最高だった。

 

リバース・エッジ:誰もが誰かの田島カンナ

好きになったり、セックスしたいと思ったり。
感情で欲望で動く僕ら。
その欲望は「相手を思い通りにしたい」という頂点に向かって爆走する。

誰とでも寝る女の子や、同性愛のいじめられっ子、両親が離婚、そんなわかりやすいキャラクターとその人たちが表す「普通の感情/普通の欲望」と一線を画すのが田島カンナだ。

最初は小さな思い込みをどんどん育てていってモンスターになる。
すごく怖い。
見るだけでイライラする彼女の存在感の凄さ。
二階堂も吹っ飛ぶ勢い。

ホラー的な面白さをプラスしてくれる。

わかりやすい喪失感、わかりやすい絶望はそれほど怖くなくて、一見マジョリティに見える、幸せそうに見える人の闇の部分は大きくて燃え上がりやすいのかも。

 

リバース・エッジ:「チワワちゃん」のような登場人物インタビューという形式でのオマージュ

ドキュメンタリーぽさの演出のためか、この映画にはインタビューシーンが挟まれる。
キャラクターたちになりきった役者さんたちのインタビューという二重三重の設定。劇中劇ならぬ劇中ドキュメンタリー。過去になんども使われた手垢のついたこの手法。成功してるか?というと微妙だけど(笑)

これは岡崎京子ファンに向けてのご挨拶だと受け取った。
岡崎京子のチワワちゃんという傑作短篇があるんだけど、インタビューによって死んじゃったチワワちゃんの裏表がわかっていくというもの。

役者が脚本に書かれたセリフを言ってもお客さんは「セリフ」として受け止めるけど、インタビューという体裁になるだけで「j真実を話してるのを聞いてる」気分になる。
まあ浅はかなんだけど(笑)

もう戻れない1990年代の空気をリアルではなく脚色するための「ノスタルジーのためのリアリズム」なんだろう。

 

 

リバース・エッジ:行定勲の初期の傑作「ひまわり」「贅沢な骨」につぐ青春映画

スターをちりばめた「つやのよる」も、キャスティングがもっと地味だったらもっと良かったろう。
まあ、映画は予算が莫大にかかるから、客を呼べる人が必要なんだろうけど。。

もう予算の大きな映画はとらないでほしい。
どうせ無理だから。
行定勲監督が思い通りにできる映画は小さくて、オリジナル脚本で、単館ロードショー向けのものだ。
残念だけど、今の日本はそうだ。

久しぶりの行定らしい映画で僕は嬉しかった。

 

【705号室】映画見聞録~映画が大好き~2018





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